最終決戦、月夜

 作・ありす様
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その日は、特に月が明るかった。エイトはサザンビークの宿屋のチェックインを済ませて、部屋で休んで居る。
 
 
明日は最終決戦の日だ。僕も、仲間も、陛下も・・・そして、姫も、明日僕達が戦いに勝利を納めて、意気揚々と元のお姿に戻られた陛下と姫に会うのを、楽しみにしてる。
 
 
それなのに。
 
 
何かが、気に掛かる。
 
 
一つは、姫だ。エイトは姫の事が好きだ。でも、これは許される恋じゃない。兵士と姫。
こんな身分に生まれた自分を、エイトは姫の事を好きになってから呪い始めていた。
 
エイトの頬を、静かに涙が伝って落ちた。その涙は手の甲に落ちた。それさえ気付いていない。
 
「姫・・・」
 
涙が、後から後から頬を伝って、手を、服を点々と濡らす。
 
「姫・・・!」
 
暗闇の中に、姫の美貌がくっきりと浮き上がったような気がして、エイトは突発的に姫に会いたくて堪らなくなった。エイトは立ち上がると、病人のように部屋を後にした。
 
 
姫に会いたい。
自分の物にしてしまいたい。
姫さえそばに居れば、何も要らない。
チャゴスなんかと、結ばれるのを見るなんて我慢できない!!
 
 
気が付けば走り出していた。途中ですれ違った商人らしき人にぶつかった時も、何も言わなかった。階段を駆け下り、無我夢中で走った。
 
外にはちゃんと姫が居た。城の方を見ている。
 
 
__嗚呼、やっぱり王子の事が気になるんだ。__
 
 
エイトは胸の辺りに込み上げて来る燃えるような嫉妬心に駆られて、すぐにそんな自分が愚かに感じた。
 
 
__あんな馬鹿王子より、僕の方がずっとずっと上だ。腕力でも知性でも、あの王子に負けるわけが無い。__
 
 
それでも、哀しくて仕方が無かった。どんなに姫の事が好きでも、どんなに想いが強くても、姫は奴と結婚せざるを得ないんだから。
 
そう思っても、今度は涙がわいて来なかった。姫が近くに居るせいだろうか。
 
エイトはゆっくりと、いかにもたった今此処に来たんだという風に姫に近づいて、そっと話し掛けた。
 
「・・・姫。もうお休みでしょうか・・・?」
 
姫は方向を変えて、こっちを見た。一寸首を傾げて、哀しげに見詰められると、エイトは改めて姫の美しさと、彼女の事を好きだという事を感じた。全身が、熱くなる。
 
姫は首を上げて、別の方向を指した。エイトは今さっきまで考えていた事を思わず口にした。
 
「・・・泉・・・ですか・・・!?」
 
期待してしまう。
 
姫が頷いた。
 
エイトは体の中で何かが伸び上がったみたいに感じた。
 
「じゃあ、行きます・・・」
 
切れ切れと言葉を口にして、姫の首にそっと手を掛けた。
 
 
__姫は、僕が赤くなったのに気付いただろうか__
 
 
小声でルーラ、と唱えて、二人の体が中に浮いた。
 
 
 
不思議な泉で。
 
足元で草が戦ぐ音がしてた。周りはとても静かで、いつもより暗く感じた。二人は黙ったまま、ゆっくりと泉の縁に近づいて行った。
 
姫は遠慮している様に泉の水に口を付けた。
 
姫の体から光が出る。
 
そして、エイトの目の前で人間版ミーティアが、悲しそうに立っていた。
 
「エイト・・・」
 
俯いて、口を開く。
 
「エイトは、なんだかとても悩んでるみたいですが。」
 
 
__言い当てられるなんて__
 
 
「はい・・・。僕は・・・」
 
ミーティアは顔を上げて、エイトの顔を見た。
 
「ミーティアは・・・」
 
ミーティアの大きな目に、涙が溜まったのを見て、エイトはミーティアをこれまでに無く好きだと思った。
 
「ミーティアは、サザンビークの王子がどんな人でも・・・結婚なんかしたくありません!!」
 
 
__どういう事だ?__
 
 
「ミーティアは、エイトの事がずっと好きだったのですから・・・」
 
エイトは目をかっと見開いた。顔が赤くなるのを感じた。
 
「本当・・・ですか・・・?」
 
まさかの筈の両思いだ、と思った。
 
「最初は、気付いてなかったわ・・・」
 
一歩前へ出て、エイトの手をそっと握った。
 
エイトも、握り返した。
 
「十二歳位にはもうエイトの事が大好きで・・・でもその事を認めたく無かったの。」
 
ミーティアは涙を流していた。
 
「最近になってからは気付いたの・・・もう自分の気持ちに嘘なんか・・・つけないって・・・っ」
 
エイトも泣きそうになった。ミーティアは自分の胸に顔をそっと押し付けて、きっと何か言ってもらえるのを待っているはずだと言うのに。
 
「ミーティアは・・・エイト以外の人と・・・結婚するなんて・・・嫌・・・」
 
 
僕だって嫌だ。
ミーティア姫を、自分以外の物なんかにしたくない。
永遠に側に居て、永遠に彼女の事を護りたい・・・!!
 
 
エイトの胸に、熱い感情が込み上げる。
 
「心配しないで下さい。姫。」
 
「ずっと、お側におりますから。」
 
ミーティアが啜り上げてから言った。
 
「敬語なんか・・・つ、使わないで・・・」
 
「はい・・・」
 
エイトは全身が更に熱くなるのを感じた。
 
「僕も、姫の事が大好きなんだ・・・」
 
ミーティアが涙を拭いて、微笑んだ。
 
「それで良いの。」
 
月明かりの下、微笑んでいるミーティアの事が、本当に愛おしいと思った。
 
「好きよ・・・エイト。もう何にも言わないで。」
 
黙ったまま、エイトは目を閉じて、ミーティアの唇に自分の唇を押し当てた。
 
 
 
END






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 <管理人コメント>
最終決戦の前夜、月夜で交わす告白にドキドキしっぱなしです。
お城の方を見つめている姫様が可愛くて、姫様からの告白が可愛くて!
更に自分の気持ちを抑えきれない主人公がツボに入りました。
ほんわかなのに情熱両想いな主姫…最高です!
ラストのキス後はどうなったのー!という感じですよ!
ありす様、本当にありがとうございましたv

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