僕の天使

 作・めぐ様
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「扉をあけよ!花嫁の入場だ。」

クラビウス王の鋭い声が飛んだ。

従者たちが大聖堂の重い扉をゆっくりと開く。

厳かな大聖堂に、明るい光が差し込んだ。



ティアは振り返った。





ミーティア姫!


ティアは、愛しい少女を捉えて、目を細めた。

胸に熱く激しい想いが、こみあげてくる。



いますぐに彼女の元へ走って、手を握り締めたい。

ずっと悲しげだったミーティア姫の瞳を覗きこんで、

もう、大丈夫だよって言って差し上げたい。

そうして、あの輝くような笑顔が見たいんだ。

愛しくて、大好きで堪らない幼馴染の暖かい笑顔。

初めて出会ったときにプレゼントされた天使の贈り物。



焼け付くように思ったけれど、ティアは石のように動けなかった。

ただ、ミーティア姫を見つめることしか出来ない。



ずっとずっと。

長い間、我慢することしか出来なかったから。



眩しいほどの光が聖堂を照らし、

その中心に真っ白なドレスを身にまとった少女と、その手を握ったトロデ王。

陽光に包まれて、二人は大聖堂の入り口にたたずんでいた。



花嫁の入場。

まさにそんなシーンだった。





けれど。

少女は、愁いを帯びた瞳を隠すように下を向いている。

隣のトロデ王は、驚きに目を見開いていた。



「ミーティア姫・・・」

ティアは小さく囁いた。



すると、バージンロードのはるか先にいた少女が弾かれたように顔を上げる。

ミーティアの悲しそうな瞳が、見る見る驚きに変わり、

それから、歓喜の色に輝いた。

ティアは、その変化に目を見張り、あまりの美しさに見惚れてしまう。



「ティアっ!」

ミーティアが喜びと嬉しさでいっぱいの笑顔を見せた。

ティアの大好きな、見ているだけで素敵な気持ちになれる笑顔。



やっぱり、ミーティア姫には笑顔が一番似合ってる。



「ティアっ」

ミーティア姫が舞うようにして豪華なバージンロードを駆けて来た。

白いドレスの裾がゆれ、何処までも真っ直ぐな黒髪がさらりとなびく。

ティアは両手を前に差し出した。

駆けて来たミーティアがぎゅっとティアの両手を握る。

彼女の柔らかな手は汗ばんでいた。



「どうしてここに?」

ミーティアの嬉しそうな声に、ティアはにっこり笑った。

キラキラ輝く緑の瞳を覗きこむ。



「あなたをさらいに来たんです」

「え?」

「君をさらいに来たんだよ」

ティアの言葉に、ミーティアは大きく目を見開いた。



ずっとずっと考えてた。

ずっとずっと悩んでいた。

僕は、どうするべきなのか。

どうしたいのか。

彼女にとって1番いいことはなんなのか。





チャゴスと結婚したら、ミーティアは二度と笑わない。

誰もが見ているだけで暖かな気持ちになった笑顔なのに。

春の若葉を思わせる暖かな瞳が、もう二度と見られない。

誰もが囚われ見つめていたい瞳なのに。



それに。

なにより。

僕は、ずっとずっと見つめていたい。

あの笑顔。あの微笑。あの優しい目の輝きを。



その全てを奪うようなチャゴスに

幼い頃から見守り続け、見つめてきた天使を渡したくなんかない!

強くそう思った。

激しく込み上げるその想いをティアは抑えることが出来なかった。





王家の結婚。

それを壊すことがどんな事態を招くかなんて、想像に難くない。

けれどティアは、どうしても我慢が出来なかった。





とても大切で

何より大事で

世界中の誰よりも大好きだから。






「僕は、君を守りたい。初めて出会ったとき、心にそう誓ったんだ」

ティアは真っ直ぐにミーティアを見つめて囁いた。

ミーティアが瞳をきらめかせる。

「何があっても、君の笑顔を守りたい。

そのためには、どうなっても構わないんだ。

例え、このことで咎を受けて死刑にされようともね。

ひどく我侭な考えだけど、どうしてもあの方に君を渡すことなんて出来ない!」

はっきりと言い切った。

これが初めて。

僕の天使に僕の想いを真っ直ぐに伝えることは。

新緑の瞳が、みるみる嬉しそうに輝き、暖かな光を帯びた。

キラキラと輝き、ティアはその暖かさと美しさに囚われる。



ずっとずっと、思い続けてきたこと。

僕が僕であることの意味。

僕にとって、彼女の笑顔を守ることは息をすることと同じこと。

舞い降りた天使の光を見守ることは、僕の幸せそのものなんだ。

だから、あの冒険も全然苦じゃなかった。

だって、僕が僕らしくあるためにしてきたことだから。





ここで。

天使の羽をもぎ取られてたまるもんか。

僕の天使は僕が守る。






「ティア・・・。」

ミーティアは暖かな瞳に透明な涙を浮かべて、幸せそうに微笑んだ。

ティアはもう一度想いを言葉に込めた。

「僕に、さらわれるのは嫌ですか?」

自分でも相当大胆なことを言っているのは分かっていた。



きっと、大聖堂というこの場所と。

二人の王が頷いて笑って認めてくれた後押しと。

絶対に彼女を渡したくないという溢れる想いが歯止めを解いている。



もう我慢したくない。

ミーティアの微笑をだれにも奪われたくない。

あのチャゴスだろうと、誰だろうと。

側にいて、僕の天使をずっと見つめて生きて生きたいんだ。

遠くで見守るなんて、そんな奇麗事を受け入れるなんて出来っこない。

一緒にいたいんだ。

好きなんだ。

大切なんだ。世界中の誰よりも!



呆れるほど強い想いと我侭な気持ちに、

ティアは素直に行動した。

今まで溜めて我慢して、ないものとして抑え込んだ熱い想いが、

火山が噴火するように爆発する。



「ミーティア姫?」

ティアの問いかけに、ミーティアは涙を溢れさせた。

透明な雫が白い頬を伝う。

緑の瞳が明るく輝き、幸せ色に染まった。

嬉しくて楽しくて幸せで堪らない、そう語りかけるようにミーティアは微笑んだ。



「ミーティアは、ティアと一緒にいたい。

ずっとずっと。いつまでも。

だからお願い。

この手を取ってミーティアをさらってください」



握られた両手に、ぎゅっと少女の力が込められた。

彼女の暖かさが伝わってきて、ティアの心が熱くなる。

たまらずに、そっと自分の方へ手を引いた。



「ミーティア姫・・・」

ふわり・・・と。

自分の体に身を寄せた少女を、優しく抱きとめる。

ティアは、壊れ物を扱うかのように、

優しく彼女の背中に腕を回した。

初めて抱きしめる愛しい少女の暖かな身体。

華奢な肩。

すっぽり腕の中に納まる小さな身体。

かすかに掠める少女の甘い香。

ティアは、何処までも真っ直ぐな黒髪をゆっくり撫でた。

サラサラと音をたてるかのごとく、流れ落ちていく。



すると・・・

ミーティアが微笑んで、ティアの肩に顔を埋めた。

「ティア・・・」

少女の細い腕が、ティアを抱きしめた。



ずっとずっと側にいて。

ずっとずっと友だちで。

抱きしめたいほど大切だけど、

怖くて愛しくて手を伸ばすことも出来なかった。

ただただ、互いに宝物のように見つめ合う。

それだけで幸せだった。





でも。

「ミーティアは今までで1番幸せです。ティア、大好き」

その囁きに、ティアの胸はことりと熱い鼓動を立てる。

幼い頃に囁かれていた少女の言葉。

いつの間にか、口から零れなくなった少女の言葉。

ティアは久々にそれを聞いて。

嬉しくて。

幼い友だちの想いではない「大好き」の言葉に、

たまらなくって。



込み上げる熱い気持ちに任せるままに、ティアは抱きしめる腕に力を込めた。



少女を放したくなくて。

自分の腕の中にいて欲しくて。

愛を込めて力強く抱きしめた。

そうして、そっと彼女の貝殻の様な可愛い耳に唇を寄せ、

「僕も好きだよ。ミーティア姫。誰よりも何よりも。」

ティアはありったけの愛しさを込めて囁いた。







「こら、ティア。ミーティアを放さんか!こんなところでいちゃついてる場合ではないぞ。大聖堂の外では、民衆がまっとる。早く行ってやらんか」

ほんわかした甘い空気を震わせる怒鳴り声。

ティアは、入り口の方で声を上げるトロデ王に気づいて、頬を赤くした。

一気に、現実が目に飛び込む。

少女の背中に回していた腕をパッと放し、気をつけ!の姿勢をした。



みんな見てる!!

うわーーー・・・・・・・



ティアは、自分たちをじっと見つめる牧師、トロデ王、従者たちを認識して、

急に恥ずかしさが込み上げてきた。

思えば相当大胆なことを口走り、行動していたような気がする。

気がするというか、、していた・・・。

背中からたらりと汗が伝い落ちた。

すぐにミーティアから身体を離そうと、一歩後ろに下がる。





けれど。





「ティア」

ミーティアが上目遣いにティアを見上げてにっこり微笑んだ。

「大好きよ。離れないで?」

緑の瞳を輝かせてそうお願いする天使に、

ティアはただ頷くことしか出来なかった。



幼い頃から囚われてきた天使の笑顔に、

僕が逆らえる分けないよね。

それに・・・

僕を幸せに暖めてくれる彼女の微笑みが見られるんなら、

誰が見てようと構わないじゃないか。



ティアはそう思って、ミーティアの瞳を覗きこんでにっこり笑った。



トロデ王の突き刺さる視線が少し痛かったけど、

気をつけの姿勢から手を伸ばし、ミーティアの腰に置いた。



「行こう。みんなの所に」

きっと、ククールもゼシカもヤンガスも心配してるはずだ。

力づくでも連れ出そうと、外で剣を構えて待ってかもしれない。

「ええ」

ティアは、腰に手を置き身体を抱き寄せるようにして、バージンロードを歩き出した。

ミーティアがティアを見上げて、にこにこと幸せそうに微笑む。

ティアも笑顔で少女を見つめた。



「ミーティアは幸せです。

ティアといられる事を世界中のみんなに声を大にして叫びたいぐらいよ。

 こんなに私は幸せなのってね。

ありがとう、ティア」

「ううん、僕の方こそ。

 ありがとう」



君の全てにありがとう。







記憶も何もかも失って荒野に立ち尽くしていた僕に。

暖かな瞳で笑顔をくれた可愛い天使。

君がいたから僕は僕になれたんだ。











大聖堂の扉が開かれた。



眩しい陽光と歓声がきらめく中。



純白のドレスを身にまとう美しい天使と、



澄んだ瞳を持った暖かで優しい勇者は、



初めてのキスをした。







それはまるでおとぎ話。



誰もが夢みる恋物語。






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 <管理人コメント>
エンディングにおける一幕ですね。
主人公の気持ちが切々と語られていて、にやけてしまいました。
眩しい光が大聖堂の内部を飛び超えて目に浮かぶようです。
これから二人は、共に幸せな人生を送ることができるのかと思うと
こちらまで幸せな気分になってしまいます。
めぐ様、本当にありがとうございましたv

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