アルゴンハート

 作・りんごろ様
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 冒険を終え――、エイトとミーティア姫は、結婚した。
 トロデーン城に戻り、皆の祝福を受けたふたりは、祝宴を終えると部屋に戻った。
 姫の部屋――。しかし、これから、そこは、ふたりの部屋となる。

 エイトとミーティアは、10年前に出逢った。
 両親をなくし、記憶を消す呪いをかけられ、竜神族の里から追放されたエイトは、
 トロデーン城に辿り着いた。
 
 どういう巡り合わせなのかは、不明だ。
 もしかすると、トロデーンの先々代の王――サザンビークの姫と、
 愛を引き裂かれた王の魂が、エイトをこの地に、引き寄せたのかもしれなかった。
 エイトは、サザンビークの正統後継者であった王子の血をひいているのだから。

 報われなかった、トロデーンの王子とサザンビークの姫の恋。
 時を越え、いつか、子孫が、自分たちの叶えられなかった結婚の夢を叶え、
 トロデーンとサザンビークの血が、ひとつに交われば……。
 その祈りが、神に届いたのかも知れない……。

 その過去においての約束――。
 しかし、ふたりには、そんなものは関係なかった。
 それが、理由で結婚したわけではない。
 
 ふたりは、10年前に出逢って、いままで、ずっと一緒にいて……、
 いつのまにか、愛を育んでいた。

 まるで、兄妹のような関係だったため、周囲も姫本人すら、自分の想いに、
 鈍感ではありはしたけれど、ミーティアは、サザンビークの王子であるチャゴスとの
 結婚を前に、自分の気持ちに気付きはじめていた。

 エイトと離れる……。
 そう思うと、淋しくて仕方なかった。
 結婚する相手が、エイトだったら、どんなに素晴らしいだろう。
 離れる時になって、自分の気持ちに気付くとは……。

 エイトのことは、大好きだった。
 恋も結婚も、よくわからなかったけど、ミーティアは、自分がエイトを
 愛しているのを……、その深いため息の中で、悟り始めた。

 エイトは、ミーティアがずっと好きだった。
 彼女が呪われて――、彼女を呪いから救うために、エイトは旅にでた。
 その旅は、世界を救うものでもあったが、なにより、エイトは姫を救いたかった。
 
 呪いから、馬になってしまった、ミーティア……。
 それでも、エイトの愛は変らなかった。
 ひとり彷徨い、途方にくれていたエイトに、姫はいつも優しかった。

 彼女と、一緒に城を抜け出して、トラペッタに行ったり……。
 迷子になって、大変だったりしたが、そのような楽しい思い出もたくさんあった。
 姫と出会ってからの10年間は、エイトにとってもミーティアにとっても、
 一生の宝と言っても、いいものであった。

 エイトは、ミーティアを、優しく見つめる。
 ミーティアは、呪いをかけられた前より、美しくなった気がした。
 エイトは、ミーティアが愛しくてたまらなくなる。

 思わず、ミーティアを抱きしめる。
 ミーティアも、エイトの背に、手を回した。

「ミーティア姫……」

 エイトの、その言葉を、ミーティアは、たしなめた。

「もう、ミーティア姫とは呼ばないで。ミーティアと呼んで欲しいわ……」

「ミーティア……」

「エイト……。私は、こんな日が来るのを、ずっと望んでいた自分に気づきました。
 お父様がおっしゃったように、過去の約束なんて、関係ないですわよね?
 これからのふたりが大切だと、ミーティアは思います」

「ボクも……。
 サザンビークの王子と知る前から、ミーティアのこと、好きだったから……」

「……エイト」

「だけど、姫は、サザンビークの王子と婚約していたから、
 自分の気持ちを言えなかった。
 けど、君が結婚することになって、ボクはやっぱり、自分を抑えられなくなった」

「結婚を止めたのは、『姫の兵として、姫の幸せを守るため』――でない」
 エイトは、言う。
「ボクは、姫を好きだから……。だから……」

「……ありがとう」
 ミーティアは、微笑んだ。
「エイトが、兵士としてでなく、ひとりの男として、私を守ってくれてたこと……。
 ミーティアは、嬉しく思います」

「ミーティア」

「これからも、私を守ってくださいね」

「勿論」

 エイトは、そう深く敬礼すると、ミーティアに口づけをした。
 そして、彼女を強く抱きしめる。

 ミーティアとは、10歳の時に出会った。
 ミーティアは、その時、8つ。
 あれから、10年の時を経て――、結ばれる時がくるとは。

 ミーティアが呪われて、冒険に出ることがなければ、エイトは、
 自分の出生の秘密も知らず、ミーティアと結婚する手立てはなかったかも知れない。
 トロデ王も、婚約者のチャゴスの性格を見抜けないまま――、
 ふたりを結ばせることに、躍起になったかも知れない。

 呪いは、なんだかんだで、上手いほうに働いた。
 呪いなどでは、はじめから、なかったかもしれない。
 愛の試練だったと……、エイトは、そう思えた。

 ミーティアも、強く、エイトを抱きしめる。
 馬のままでなくて、本当に良かったと心から思う。
 こうして、愛する人を抱きしめることが、出来るのだから……。

 エイトを抱きしめるミーティアの指には、エイトの母親の形見の指輪が光る。

 サザンビークの王子であった、エイトの父親・エルトリオが、
 竜神族のエイトの母・ウィニアにあげた婚約指輪――。
 アルゴンハートの石で作った、アルゴンリング。
 
 哀しい思い出の品となっていたそれも、これからは、幸福な愛の象徴として、
 ミーティアの指で、美しく輝き続けるであろう。
 
 
 
 END.
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 <管理人コメント>
 記念すべき一本目の主姫SS♪
 なんとトロデーン王家御成婚直後のお話でございますよ!
 お互いをお互いが深く想いあっていて、とても幸せな気分に浸らせてくれます。
 二人のあまりのラブラブっぷりにこちらが照れてしまいます…!
 ありがとうございました!

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